中国輸入必読|日本税関と知的財産権リスクの実務ガイド「この商品、輸入して大丈夫?」侵害リスクの判断方法

中国から日本へ商品を輸入するにあたり、知的財産権の遵守(コンプライアンス)は避けて通れない重要課題です。
しかし現状では、インターネット上に体系的な解説が十分に存在せず、情報が断片的であったり、専門的すぎて実務に落とし込みにくいケースが少なくありません。

本記事は、そうした情報の空白を埋めることを目的としています。
まず、日本における関連法制度を整理された構成で分かりやすく解説します。次に、日本の税関が公表する公式統計データをもとに、実際の取締りの重点と直近の傾向を明らかにします。
最後に、私たちが現場で培った実務知見を踏まえ、具体的に実行可能なセルフチェック方法とリスク回避の指針を提示し、強固なコンプライアンス体制の構築を支援します。

目次

知的財産権の基礎知識

知的財産権とは何か?

知的財産とは、人間の創造的活動の結果として創作されるアイデア等無形のもので、財産的価値があるものをいいます。
知的財産基本法第2条第1項では、「知的財産」とは、発明、考案、植物の新品種、意匠、著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるもの(略)、商標、商号その他事業活動に用いられる商品又は役務を表示するもの及び営業秘密その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報をいうと定義されています。

知的財産の概要

基本原則

中国から商品を輸入してビジネスを行う私たちにとって、まず押さえておきたい最も重要な原則があります。それが、知的財産権の「地域性」です。

地域性とは何か。分かりやすく例えてみましょう。
中国で運転免許を取得しても、その運転資格が認められるのは中国国内に限られます。中国の免許証をそのまま持って日本で運転すれば、違法になります。
知的財産権も、これと同じ考え方です。

そのため、中国から商品を日本へ輸入して販売する場合、必ず次の二つのルールを同時に守る必要があります

  1. 中国側のルール
    中国のサプライヤーが、その商品を中国国内で適法に製造・販売できる権利(許諾・ライセンス等を含む)を有していることを確認する必要があります。これが担保されて初めて、取引自体が適法で問題のないものになります。
  2. 日本側のルール
    その商品が日本に入る時点で、日本国内ですでに有効となっている商標権や特許権などを侵害していないことを確認する必要があります。
    ここが、日本市場で安全に販売できるかどうかを左右する最も重要なポイントです。
知的財産権的基本原則

輸入商品の法的根拠と日本税関の執行重点

「知的財産権を侵害する商品の輸入を禁止する」という限定された分野において、《関税定率法》第21条は、日本の税関にとって最も直接的な根拠となる条文です。
税関職員が、ある貨物について輸入・通関を認めるかどうかを判断する際、その中心となる法的根拠がこの条文です。

もちろん、より広い法体系全体で見れば、これが唯一の法律というわけではありません。
商標については商標法、発明については特許法、著作物については著作権法といったように、権利そのものの内容を定義する「基本法」がそれぞれ存在します。

《関税定率法》第21条の役割は、これらの基本法によって認められた権利を、水際(国境)において行政手段(税関)で強制的に実効化することにあります。
言い換えれば、基本法が「権利を定める法律」だとすれば、第21条はその権利を「水際で守る」役割を担っている、と理解すると分かりやすいでしょう。

《関税定率法》第21条(知的財産権侵害物品の輸入禁止)
第二十一条
次に掲げる物品は、輸入してはならない。
一 日本国内において効力を有する特許権、実用新案権意匠権又は商標権を侵害する物品
二 日本国内において効力を有する著作権又は著作隣接権を侵害する物品
三 不正競争防止法第二条第一項第一号から第三号までに掲げる不正競争を構成する物品

税関における知的財産侵害物品の差止状況

日本税関が公表している最新の統計によると、差し止められた侵害物品の「構成比」は、商標権が約半数(46.4%)を占め、これに著作権(40.3%)が続き、意匠権は約9.0%となっています。

この三つを合計すると、全体の95%以上を占めます。理由は明確で、これらの侵害品は流通量が多く、外観や表示から比較的判別しやすいため、税関による差止・取締りが行われやすいからです。
意匠権については、一定の比較・検討が必要になる場合もありますが、人気商品の特徴的な外観が模倣されるリスクは高く、現在では重点的な監視対象になっています。

言い換えれば、これら三つは、私たちが輸入ビジネスを進めるうえで特に踏みやすい「三大落とし穴」です。
次章では、それぞれが具体的に何を指すのか、どのような場合に侵害と判断されるのかを整理し、実例を交えながら分かりやすく解説していきます。

なその他の権利(たとえば特許権)が重要でないというわけではありません。
知的財産権のコンプライアンス審査を行うにあたっては、関税定率法第21条に列挙されているすべての権利類型を網羅的に確認することが不可欠です。

権利の概要及び侵害行為

知的財産侵害物品(コピー商品等)の取締り

商標権の内容と侵害となる行為

商標権とは、商品やサービスの出所(どこのものか)を示すための名称・ロゴ・マークなどを、一定の範囲で独占的に使用できる権利です。
日本では、特許庁に登録された商標について、同一または類似する商品・サービスの分野で、第三者が無断で使用すると侵害となり得ます。

商標権侵害と判断されやすい代表例は、次のとおりです。

  • 登録商標と同一または酷似したロゴや名称を、商品・パッケージ・タグ等に使用する
  • 商標(ブランド名やロゴ)を、商品名・商品説明・広告などに無断で使用する
  • 正規品ではないにもかかわらず、正規品であるかのように誤認させる表示を行う

また、「ノーブランド商品」として販売していても、見た目や表示が特定のブランドを強く想起させる場合には、商標権侵害と判断される可能性があります。

税関で差し止めた侵害物品の例(商標権)

著作権の内容と侵害となる行為

著作権は、創作性のある表現(イラスト、キャラクター、写真、文章、デザインなど)を保護する権利です。
商標権や意匠権と異なり、登録手続をしなくても、創作された時点で自動的に発生する点が大きな特徴です。

侵害となりやすい行為には、次のようなものがあります。

  • キャラクターやイラストを無断で商品に使用する
  • 他人が制作した画像・デザインを流用(転載・転用)する
  • 公式ライセンスのないIP商品を輸入・販売する

「少しデザインを変えた」「一部だけ使った」という場合でも、元の著作物との類似性が高ければ侵害と判断されることがあります。

税関で差し止めた侵害物品の例(著作権)

意匠権の内容と侵害となる行為

意匠権は、商品の形状・模様・色彩など、外観デザインを保護する権利です。
見た目そのものが価値になりやすい商品では、意匠権が重要な役割を果たします。

意匠権侵害とされやすいのは、次のようなケースです。

  • 登録意匠と実質的に同一、または非常に近い外観の商品を製造・販売する
  • 商標を付けていなくても、外観が酷似している場合(外観の近似だけで問題となり得ます)

意匠権は、「知らなかった」「意図していなかった」だけでは免責されにくい点にも注意が必要です。特に人気商品やヒット商品の周辺では、外観を模倣した商品が重点的にチェックされる傾向があります。

これら三つの権利は、輸入ビジネスにおいてトラブルにつながりやすい代表的な分野です。商品選定の段階で、それぞれの違いと侵害リスクを理解しておくことが、最大の予防策と言えるでしょう。

税関で差し止めた侵害物品の例(意匠権)

日本税関の検査手続と侵害品輸入に伴うリスク

日本税関による輸入貨物の検査フロー

第1段階:到着後のリスク分析
輸入貨物が日本の港湾または空港に到着すると、税関の情報システムにより、まずリスク分析が行われます。
貨物のブランド、品目、発送者等の情報が、税関のデータベースに登録されている権利者の申立てに基づく高リスク情報と一致した場合、当該貨物は重点確認の対象となります。

第2段階:開梱検査と初期判断
リスクが高いと判断された貨物について、税関職員が開梱検査を行います。
商品に第三者の商標と思われる表示が使用されている場合や、外観が登録された意匠と高度に類似していると認められる場合、税関は当該貨物について知的財産権侵害のおそれがあると判断します。

第3段階:手続の一時停止(認定手続開始通知)
これは最も重要な段階です。
税関は、輸入者および知的財産権者の双方に対して書面による通知(認定手続開始通知)を行い、「侵害の疑いがあるため、通関手続を一時保留とする」旨を伝えます。
この時点から貨物は税関の管理下に置かれ、原則10執務日(延長される場合あり)の意見提出期間が開始されます。

第4段階:輸入者の意見提出期間
この期間中、輸入者および権利者は、それぞれ証拠や意見を提出することができます。
輸入者: 中国の取引先に速やかに連絡し、当該貨物が侵害に該当しないことを示す資料(日本での商標使用許諾書、特許関連資料、商品差異を説明する書面等)を取りまとめ、税関に提出します。
権利者: 当該貨物が自らの権利を侵害しているかどうかを確認し、権利の存在を示す資料を税関に提出します。

第5段階:税関による認定
税関は、双方から提出された資料を審査したうえで、最終的な認定を行います。
「侵害に該当しない」と認定された場合: 貨物は通関されますが、手続の遅延や追加の保管費用が発生することがあります。
「侵害に該当する」と認定された場合: 当該貨物は輸入不可となり、所定の措置が取られます。

認定手続の流れ

侵害品を輸入した場合のリスク

一度「侵害品」と認定されると、輸入者は二重の打撃を受けることになります。
貨物を失うだけでなく、事業者本人にも法的責任が及ぶ可能性があります。

貨物に対する措置(直接的な経済損失)

税関は法令に基づき、処分(措置)を行います。最も一般的で、かつ厳しい結果は、没収および廃棄です。
これは、当該貨物に支払った商品代金、国際送料、関税等の仮納付金などがすべて回収不能となることを意味します。さらに、廃棄に要する費用も輸入者が負担しなければなりません。

輸入者に対する措置(法的・ビジネス上のリスク)

  1. 行政上の不利益・信用リスク
    会社情報が記録として残り、将来の輸入において重点的な確認対象とされる可能性があります。その結果、開梱検査の割合が上昇し、通関に時間がかかるだけでなく、コストも増加します。
  2. 民事責任――損害賠償、場合によっては輸入の継続的(事実上恒久的)な制限
    権利者は、商標法などに基づき、輸入者に対して損害賠償を求めて訴訟を提起することができます。
    ここで特に注意すべきなのが、関税法第69条の11です。簡単に言えば、権利者が訴訟で勝訴し、輸入禁止を命じる裁判所の判決を取得した場合、その判決に基づき、税関に対して当該個人または企業による同種侵害品の輸入を禁止するよう求めることが可能になります。
    これは、事実上、そのビジネスラインが完全に断たれることを意味します。
  3. 刑事責任――最も重い結果
    偽物であることを認識したうえで、故意に輸入・販売していた場合、悪質性が高いと判断されれば犯罪が成立する可能性があります。その場合、高額な罰金に加え、関係者が懲役刑(有期刑)を科されることもあります。

侵害物品の取締りの概要

販売プラットフォームによる同時対応

忘れてはならないのが、輸入の目的は多くの場合、Amazon、楽天市場、メルカリなどのプラットフォームで販売することだという点です。これらのプラットフォームは、侵害申立てを受けたり、税関による差止め等を把握した場合、非常に迅速に対応します。

具体的には、侵害商品の出品を即時削除し、売上金を凍結し、場合によっては侵害を行った販売者アカウントを永久停止することもあります。
つまり、貨物と資金を失うだけでなく、販売の場(アカウント)そのものも失うという、極めて深刻な結果につながるのです。

Amazonでは、ブランドやその他の権利所有者の知的財産権を侵害する出品を禁止しています

日本の輸入事業者が侵害リスクを防ぐための体系的対策

日本で輸入ビジネスを行う場合、知的財産権侵害のリスクは、税関で差止め等が行われた時点で初めて発生するものではありません。
商品を選定し、仕入れを決定したその瞬間から、すでに存在しています。
事後対応のコストは極めて高いため、リスク管理はプロセスの上流(前工程)へ徹底的に前倒しする必要があります。
以下では、輸入プロセスの各段階に沿って、実務性の高い体系的な対策を整理します。

第1段階:仕入れ前のチェック――リスクを源流で遮断する

最も重要な段階であり、基本原則は 「権利を確認してから発注する」 です。
多くの侵害リスクは、商品選定の時点で見抜くことができます。

  1. 初期リスクの把握と選別
  • 商標リスクの確認: 商品にブランド名、ロゴ、型番などの表示が含まれていないかを確認します。
  • 著作権リスクの確認: アニメ・ゲームのキャラクター、明確な出所を持つ図案やアートスタイルには特に注意が必要です。
  • 意匠(外観)リスクの確認: 商品の外観が、日本市場で知られているヒット商品と「酷似していないか」を判断します。実務上の目安として、「有名商品のイメージに便乗しているように見えるデザイン自体が、高リスクのサイン」と考えるべきです。
  1. 体系的な権利調査
  • 商標調査: 必ず日本特許庁(JPO)のデータベースを使用し、完全一致だけでなく類似商標も含めて調査し、指定商品・役務が保護範囲に含まれているかを確認します。中国の商標登録証は日本では無効である点に注意が必要です。
  • 意匠調査: リスクが疑われる商品については、JPOで意匠調査を行います。判断基準は、「一般消費者が受ける全体的な視覚印象」が登録意匠と類似しているかどうかです。
  • 特許調査: 電子製品や機械設備などの技術系商品については、技術内容が日本で有効な特許の権利範囲に含まれていないかを確認するため、特許調査が必要です。

IP商品に関する絶対原則:許諾が先

  • アニメキャラクターや著名な図案など、著作権に関わる商品については、日本の権利者からの直接の許諾、または権利者まで遡れる明確な許諾関係(ライセンスの連鎖)を取得することが唯一の安全策です。書面による有効な許諾がない商品には、決して手を出すべきではありません。

輸入時の知的財産権に関する取扱いについて不明点がある場合は、事前に、通関を予定している管轄税関へ相談することを推奨します。

税関名主な管轄エリア・特徴電話番号メールアドレス
東京税関成田空港・羽田空港・首都圏物流拠点。航空貨物・EC輸入が圧倒的に多い03-3529-0700tyo-gyomu-sodankan@customs.go.jp
横浜税関横浜港・川崎港など。コンテナ貨物・中国輸入の海上物流が集中045-212-6000yok-sodan@customs.go.jp
名古屋税関名古屋港中心。製造業向け部品・機械・中国輸入が非常に多い052-654-4100nagoya-gyoumu-sodankan@customs.go.jp
大阪税関関西国際空港・大阪港。西日本最大級の輸入拠点06-6576-3001osaka-sodan@customs.go.jp
神戸税関神戸港中心。伝統的な国際貿易港、アジア向け輸入比率が高い078-333-3100kobe-sodan@customs.go.jp

税関相談官の問合せ先一覧(カスタムスアンサー)
Q&A(税関の取締り)

第2段階:仕入れ実行――契約で責任を明確化する

調査を終えて仕入れを決定した後は、法的文書によってリスクの所在を明確にし、証拠を固定する必要があります。

  • 重要ポイント:責任範囲を明確にした仕入契約の締結
  • 契約書には、「知的財産権の非侵害保証および全面的な補償条項」を必ず盛り込みます。
    供給者に対し、第三者の知的財産権を侵害していないことを保証させ、侵害に起因するすべての損失(税関での没収、訴訟における賠償、弁護士費用等を含む)を負担する旨を明確にします。
  • 商標登録証、特許証、ライセンス契約書などの証明書類の提出を求め、契約書の添付資料とします。
    これらの資料は、将来トラブルが生じた際の重要な証拠となります。

第3段階:緊急対応とリスクヘッジ

事前対策を十分に行っていても、緊急時に備えた体制構築と、最悪の事態を想定した財務面の備えは不可欠です。

  1. 税関照会への緊急対応体制の構築
  • 担当者をあらかじめ指定し、税関から「認定手続開始通知」を受け取った場合に、10執務日の重要な対応期間内で、契約書や許諾書などの資料を迅速に収集・提出できる体制を整えます。
  1. 知的財産権侵害保険の活用を検討
  • この種の保険は、侵害訴訟への対応にかかる弁護士費用、和解金、損害の一部などを補償することがあり、企業の財務リスクに対する一つの「防波堤(セーフティネット)」となります。
中国輸入の知的財産リスク、事前対策がすべてを左右します

ラクット輸入(Rakutto)は、中国輸入に特化した実務支援サービスとして、
日本税関の水際実務と実際の輸入現場を熟知したチームが、
「止められない輸入」を実現するための具体的な対策をご提案します。

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